2017/10/25

科研費(4)


 10月最終週の学校会計のチカラは、科研費における不正事例と発生原因、科研費の不正対策について考えていきます。

1.科研費の不正事例

 科研費は、ルールに基づいた使用が求められていますが、これまで多くの不正な支出が発生しています。不正な支出が発覚した場合は、研究費の返還や応募資格の停止、懲戒処分などの厳しい処罰が課せられることがあります。
 過去に発生した不正事例は、今後の対策の参考になると考えられます。過去の不正では、どのような目的で不正に着手したのか、不正発生の背景はどのようなものであったのかについて知ることが不正対策に向けた第一歩になると思います。
 今回の学校会計のチカラでは、最近公表された不正事例を紹介します。

 (1)予算超過
 研究者は、当初計画のX機械装置に代えてY機械装置を購入しようとしたが、その価格が当年度に配分の予算残額を超過したことから、当年度の分担金でY機械装置の一部機能を除いた機械装置を購入した。そして、翌年度の予算で一部機械装置を改造することによって、最終的にY機械装置を調達した。
 この事例は、①研究者が科研費の繰越し手続きを執ることができることについての理解不足、②所属長とのコミュニケーション不足によることが原因であると考えられる。

(2)架空請求
 研究者は、研究費不足の懸念や増加する業務量のために事務手続きをする時間的・精神的な余裕がなくなったことにより、業者に依頼して研究に必要なものを納品してもらうものの、代金の支払に必要な書類を提出させないという不適切な取引により、業者への未収金を生じさせた。そして、研究者及び業者は、この未収金を精算するため、架空請求(偽装納品)を行った。
  この事例は、①研究者のルールやコンプライアンス意識に対する理解度が不十分であること、②納品物を取引業者から受領した職員は、納品書に受領印を押印することになっているが、納品物を確認せずに納品書に受領印を押印する不適切な行為が行われるなどの不正防止の機能が働いていないことが原因であると考えられる。

(3)共謀
 研究者は、業者と共謀し、研究機関に対して架空請求や品名替えにより預け金を不正に計上した。その手口は、架空の請求書や納品書等を業者に指示して作成させ、研究機関に対してそれらが納品されたことを装うために検収印が押印された納品書を提出した。預け金の一部は、現金で還流を受けるなどして私的流用した。
 この事例は、①研究者及び業者は、公的研究費を正しく執行するという責任感や倫理観が著しく欠如していたこと、②研究チーム事務員が事務のサポート及びチェックを担っていたにもかかわらず、研究者の不正に加担していたことが原因である。

(4)偽装
  研究者は、自ら調達した物品の代金(仕入原価)について、業者(個人事業主)の名義を使用して、自ら見積書・納品書・請求書を作成し、自らが仕入原価と説明する金額に水増しをして研究機関から業者へ支払わせた。そして、業者から自らの銀行口座に前述の仕入原価と説明する金額を振り込ませていた。
  この事例は、①研究者のモラルと公金を扱うことに対する自覚の欠如、②長年にわたる業者との付き合いによる情や馴れ合いが原因であると考えられる。

 (5)架空の出張
 出張期間中に開催予定のある学会や会合へ出席したように装うことや、架空の用務を設定することで、研究課題に沿った内容の出張であるかのように見せかけた。
  この事例は、①出張の事実確認方法の不備、②研究費は公的資金であるという認識及びコンプライアンス意識の欠如、③研究費の使用目的が当該研究費の研究課題の追求に関するものである必要があるという認識の欠如が原因であると考えられる。

 (6)カラ出張
 出張の場合、旅行伺いを出張の都度、事前に提出しなければならないが、研究者は出張手続きの処理期日直前に過去1か月分程度の架空の旅行伺を自らが作成し、事後提出することを繰り返し行っていた。また、旅費の支払い請求のために出張後に旅行伺にサインをする手続きについても、研究室の秘書等を介さず、直接自分に連絡するよう指示した上で自ら事務部へ赴きサインをするなど、極力他人の目に触れないように手続きを行っていた。当該研究者に対しては、出張の都度、事前に旅行伺を提出するよう事務部の担当者から何度も注意を行ったが、一切聞き入れられることはなかった。
 この事例は、①研究室の運営会議で出張等の予定が適切に共有されておらず、当該研究者の出張日時を把握していなかったことなど、関心の希薄さや研究室内での情報共有不足、②研究機関の出張旅費支給手順から逸脱した事後提出を長期間許容していた、③旅費の支給手続きを円滑に実施するために事務部門に集約しているが、効率性を求める一方で勤務管理と旅費支給の担当部署間での連携が疎かであったことが原因であると考えられる。

2.不正対策
 過去の不正事例は、上記事例の多くに共通していますが、研究者の科研費ルールの理解不足やモラル・コンプライアンスの問題、私的流用の誘因につながる研究機関の管理体制に問題があったことに起因していることが多いです。
 これらの問題点を踏まえ、①研究機関におけるルールや規定・承認方法の見直し、②ペナルティの厳格化、③内部監査の強化、④外部監査の導入、⑤取引業者選定の見直し、⑥不正発覚時の対応の仕組み作り等を行い、不正防止に取り組むことが大切です。

 【参考文献等】
・科研費ハンドブック2017年度版(文部科学省研究振興局、独立行政法人日本学術振興会)
・科研費FAQ H28.8版(独立行政法人日本学術振興会)
・研究機関における不正使用事案(文部科学省)
・研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(文部科学省)
・学校法人会計のすべて(齋藤力夫、税務経理協会)

                                  永和監査法人
                                公認会計士   佐藤弘章



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